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大阪高等裁判所 昭和30年(ネ)1178号 判決

控訴人 柳田徳治郎

被控訴人 中村純一

主文

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人の請求を棄却する。

三、被控訴人は控訴人に対し、別紙目録記載の各不動産につき昭和二四年一〇月一一日付売買による所有権移転登記手続をせよ。

四、控訴人のその余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文第一ないし第三、第五項同旨ならびに「被控訴人は控訴人に対し別紙目録記載の不動産中奈良市高畑町一、三二二番地の二田四畝六歩ほか畦畔二〇歩について奈良県知事に対しその地目を宅地とする手続をして地目変更手続をしなければならない」旨の判決を求め被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の主張は、

控訴代理人において、「(一)控訴人主張の貨借については当初借用証書が差入れられていたが、その後これを甲第六号証の借用証書に書き替え、その際当初の借用証書を被控訴人に返還した。これら借用証書の名宛人が紫雲真昭となつているのは、同人は控訴人の女婿であつて、控訴人が売渡担保として取得した本件不動産を将来同人に譲渡する場合を考慮して同人を名宛人として記載したにすぎず、同様の思考から甲第一号証の売渡証書の買受人名義も当初空白としていたが、紫雲と控訴人の長女とが昭和二五年五月離婚になつたので、控訴人を買受人として記載したものであつて、要するに控訴人の貸付金は被控訴人より弁済されなかつたものである。(二)本件不動産中奈良市高畑町一、三二二番地の二の土地は公簿面上は田四畝六歩ほか畦畔二〇歩となつているが、この土地は終戦当時の昭和二〇年頃から稲作はされておらず雑草が生えて宅地となつていたものであるから、昭和二四年一〇月一一日被控訴人がこれを売渡担保として控訴人に譲渡する当時、被控訴人は右土地の地目を宅地に変更して譲渡すべき義務があつたものである。(三)被控訴人主張のごとき貸借の事実は否認する。」と述べ、

被控訴人において「(一)被控訴人は昭和二四年一〇月一二日控訴人から金一三万円を利息月六分、弁済期同年一一月中と定めて借用し、結局同年九月二日に借用した金一二万円と合わせて二口計二五万円を借用し本件不動産を譲渡担保として控訴人に提供していたが、同年一一月一一日右元利金を完済した。(二)控訴人主張の高畑町一、三二二番地の二の土地は控訴人主張の当時現況宅地ではなく、農地であつた。右土地の中立木地帯をのぞく東五〇坪については、被控訴人が訴外岡崎良吉に譲渡するため、昭和二八年七月一八日附で農地法第五条にもとずく転用のための所有権移転の許可をえたものである。」と述べたほか、すべて原判決の事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

証拠関係

控訴代理人は、甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし五、第五、六号証、検甲第一号証を提出し、右検号証は昭和三四年二月中旬控訴人主張の高畑町一、三二二番地の二の土地を撮影したものであると説明し、当審における証人松本比義、赤堀和郎、筒井佐一郎の各証言、原審ならびに当審における控訴人本人の供述を援用し、乙第一、二号証の成立は不知、乙第三号各証の成立はみとめ同号証の二の七項の二、三を利益に援用し、被控訴人の甲第六号証の認否訂正には異議があると述べ、被控訴人は、乙第一、二号証、第三号証の一ないし三を提出し、原審における証人中村正勝(第一、二回)、原審ならびに当審における証人赤堀和郎の各証言および被控訴人本人の供述を援用し、甲第一号証から甲第五号証までの成立をみとめ、甲第六号証については、成立をみとめると述べた当初の認否を訂正し、同号証の被控訴人名下の印影が被控訴人の印章によつて押印されたことはみとめるが、その成立は否認すると述べ、検甲第一号証は控訴人主張の土地の写真であることはみとめるが、その撮影年月日は不知と述べた。

理由

別紙目録記載の本件不動産がもと被控訴人の所有であつたこと、および控訴人が被控訴人を相手方として仮登記仮処分命令をえて、本件不動産につき昭和二七年三月三一日奈良地方法務局受付第一、〇一〇号をもつて所有権移転請求権保全の仮登記をしたことは、当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし五、当審における証人赤堀和郎の証言および控訴人本人の供述により成立のみとめられる甲第六号証(ただし被控訴人名下の印影が被控訴人の印章によつて押印されたことは争がない)と原審証人赤堀和郎の証言、原審ならびに当審における控訴人および被控訴人各本人の供述(被控訴人については後記信用しない部分をのぞく)を綜合すれば、控訴人は昭和二四年一〇月一一日被控訴人に対し金一〇万円を弁済期同年一一月二〇日と定めて貸付け、その弁済を確保するため譲渡担保として被控訴人から売買名義により本件不動産の所有権の移転を受けることを取り決めるとともに、もし被控訴人が弁済期日に支払わないときは控訴人において右担保物件を換価処分できることを約したことがみとめられる。

被控訴人は昭和二四年九月二日控訴人に対し本件不動産を譲渡担保として提供した旨主張するけれども、これをみとめる証拠は全然ないし、さらに被控訴人は昭和二四年一〇月一二日控訴人から金一三万円を借用し、さきに同年九月二日に借用した金一二万円と合わせて二口計二五万円のために本件不動産を譲渡担保として控訴人に提供した旨主張するけれども、右主張に副う趣旨の原審ならびに当審における被控訴人本人の供述部分および乙第二号証の記載は前掲証拠に照らして信用し難く、他に上記認定を動かすに足る証拠はない。

被控訴人は控訴人からの借金は昭和二四年一一月一一日すべて弁済したと主張するけれども、前掲の各書証、当審における証人松本比義、赤堀和郎の各証言、原審ならびに当審における控訴人本人の供述を綜合すれば、控訴人は上記認定の貸金の弁済期日である昭和二四年一一月二〇日頃被控訴人の懇請により右貸金の返済について一〇日間ほどの支払猶予を承諾したが、被控訴人がこれを履行しないので、督促の結果、被控訴人は昭和二五年一月はじめ頃、当初の借用証書を書き替え、右借受金の弁済期日を同年三月末日と取り決めたこと、しかるに被控訴人は右弁済期日にも履行しなかつたのみならず、控訴人に対する本件不動産の所有権移転登記にも協力しなかつたので、控訴人は権利保全の方法として冒頭認定の仮登記をしたものであることがみとめられる。原審証人赤堀和郎の証言、原審ならびに当審における被控訴人本人の供述中右認定に反する部分は前段に掲げた証拠に照らして信用し難く、他に右認定を動かして被控訴人主張の弁済の事実をみとめるに足る的確な証拠はない。したがつて、被控訴人の弁済の主張は到底採用しえない。

次に本件不動産中控訴人主張の高畑町一、三二二番地の二の土地についての譲渡担保契約の効力についてみるに、成立に争のない乙第三号証の一ないし三、右土地の写真であることにつき争のない検甲第一号証と当審における証人筒井佐市郎の証言および控訴人、被控訴人各本人の供述を綜合すれば、右土地は、地目のうえでは田四畝六歩ほか畦畔二〇歩となつているが、すでに戦時中から田として耕作されておらず、そのうち中央東寄りの約五〇坪の部分が野菜畑として耕作利用されていただけで、右畑地の部分を取り巻く北、西、南寄りのその他の部分約七六坪は立木や雑草の生育するに任されている状態で、右土地の局囲がほとんど住宅地となつたのにともなつてすでに宅地化していたこと、右畑地の部分については、被控訴人が訴外岡崎良吉に右土地全部を宅地として譲渡するにつき、右両名から昭和二八年二月二五日奈良県知事に対し農地法第五条第一項にもとずく転用許可の申請をなし、同年七月一八日その許可をえ、現に宅地化していることがみとめられる。そうすると、昭和二四年一〇月一一日の本件譲渡担保契約当時においても、右土地のうち現況宅地の部分は農地、すなわち「耕作ノ目的ニ供セラルル土地」ではないから、この部分の土地所有権移転については、当時の農地調整法にもとずく知事の許可を要しないというべきであり、また右畑地の部分は本件譲渡担保契約当時は現況農地であつたから、譲渡担保契約による所有権移転の効力を生ずるためには農地調整法にもとずく知事の許可を要し、その許可のない限り所有権移転の効力を生ずるに由ない筋合いであるけれども、控訴人が上記認定のごとく右譲渡担保契約にもとずいて右土地の所有権移転請求権保全の仮登記をなし、これによつて権利保全を講じている間に、右畑地が知事から転用許可をえて現に宅地となつた以上、たとえその許可が仮登記権利者である控訴人のためにあたえられたものでなくとも、じごその畑地はすべての人に対する関係において宅地として取扱われるべきであるから、本件譲渡担保契約による所有権移転の効力について存していた瑕疵は治癒されるものと解するのが相当である。したがつて、被控訴人はもはや、本件譲渡担保契約による右畑地の部分の所有権移転について知事の許可がないことを主張しえなくなつたものといわなければならない。

以上の次第で、控訴人が本件譲渡担保契約にもとずいてした本件仮登記について、債務の弁済を前提としてその抹消を求める被控訴人の請求は失当である半面、控訴人は右譲渡担保契約にもとずく換価処分の前提として、被控訴人に対し本件各不動産について前記売買による所有権移転登記を請求しうるものといわなければならないから、これを求める控訴人の請求は正当である。なお控訴人が前記の高畑町一、三二二番地の土地について、被控訴人に対し地目変更登記等を請求する部分は、右土地が現況宅地である以上、右請求の必要がない。よつて、右と異なる原判決を取消したうえ、被控訴人の本訴請求を棄却し、控訴人の本訴請求中、所有権移転登記を求める部分はこれを認容し、地目変更登記等を求める部分についてはこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 沢栄三 木下忠良 寺田治郎)

目録

奈良市高畑町一、三二二番地の二

一、田 四畝六歩ほか畦畔二〇歩

同所 一、三二三番地の二

一、宅地 七〇坪

同所 一、三二三番地の一

一、宅地 六二坪

同所一、三二三番地上

家屋番号同町五五三番

一、木造瓦葺二階建居宅井戸屋形 一棟

建坪 三〇坪三勺

二階坪 一七坪一合二勺

同所 同番地上

家屋番号同町五五二番

一、木造瓦葺平家建居宅 一棟

建坪 一二坪五合八勺

同所 一、三二三番地の二地上

家屋番号同町五五一番

一、木造瓦葺平家建居宅 一棟

建坪 一二坪五合五勺

附属一号

一、木造瓦葺平家建便所 一棟

建坪 五合四勺

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